前回は『学ぶチカラの育て方』という王道的な内容でしたので、今回は少し違った雰囲気でいこうと思います。当メルマガ史上初の昔話風のお話です。
昔々のお話。山のふもとの小さな村に、弥助という男が住んでいました。
妻を病気で亡くし、一人息子の松吉は身体が弱く家も貧しい。つい口をついて出るのは「幸せになりたい」でした。そんなある日、薬の行商人からこんな話を聞きます。
名前も、どこに咲いているかも分からないが、見つけた者は幸せになるという光り輝く花がある。
その花のおかげで長者になったり病気が治った人がいるというのです。弥助はいてもたってもおられず、幼い松吉を隣人に預けてその花を探しに出ました。
まずは行商人が来た道をたどりましたが、二十日ほどが過ぎてもそれらしい花は見当たりません。峠の茶屋で手伝いをしながら行き交う人に尋ねても、噂で聞いたという人がいるだけでした。
次に弥助は、お殿様にも教えたりするという物知りな住職を訪ねました。
年老いた住職は弥助の話を聞くと、「それはどこかにあるものかのぉ」とボソッと言うだけ。弥助は、「あるんです!幸せになりたいんです!教えてください!!」と重ねて頼みましたが、住職は「息子が待っている家に帰りなさい」と優しく微笑むだけでした。
がっかりした弥助はとぼとぼと山道を下りながら、松吉のことを思い出していました。早いもので、家を出て1年近くになります。
かわいい息子を幸せにしたい、花を見つけるまでは帰らない!
そう強く決心したはずでしたが、いつしか足は村に向かい、気がつけば駆け足になっていました。
ようやくたどり着いた村の入り口で、野菊が咲いているのが目に留まりました。
ありふれたその花を1本摘み、松吉を預けた隣人の家に向かうと、松吉は布団に臥していました。弥助は、寝込みがちになったという息子を抱きしめ長く留守にして悪かったと涙ながらに謝ります。
松吉は弱々しい声でこう言いました。
あぁ幸せだなぁ。
父ちゃん、それが幸せになれる花かい?
弥助が「そうだよ」と頷きながら野菊に目をやると、暗い部屋の中で白い花が輝いていました。
幸せとは、何かを得て“なるもの”ではなく、“気づくもの”だというお話でした。
この春、新学期から家庭環境が変わるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
3月もあと2週間・・・
今まで当たり前のように過ごしていた時間が、かけがえのないものに感じられますよね。1日1日を大切に味わっていきたいと思います。(はい、何を隠そう我が家も・・・)
(文:大原)
※今日のお話は、お寺様から頂いた会報誌「ともしび(第509号)/真宗仏佛光寺派宗務所 発行」から引用・編集させていただきました。